臨時レポート

英国がEU離脱を通知-次は何が起こり得るのか?

2017年03月30日

アザド・ザンガナ

アザド・ザンガナ

シニア欧州エコノミスト兼ストラテジスト

キース・ウエ―ド

キース・ウエ―ド

チーフ・エコノミスト兼ストラテジスト

 英国のメイ首相は、リスボン条約50条に基づき欧州連合(EU)離脱を通知しました。事実上、ここから2年間にわたり、EU離脱の条件交渉が始まります。

 2016年6月に国民投票でEU離脱を決定して以降、英国株式市場が堅調である一方、英ポンドは下落するなど、市場の反応はまちまちとなっています。

 EU離脱を選択した今、次は何が起こり得るのでしょうか?以下、シュローダー・グループのエコノミストがコメントします。

アザド・ザンガナ  シニア欧州エコノミスト兼ストラテジスト

 英ポンドの下落は市場の予想通りであり、現在は、通貨安にともなう輸入物価の上昇が英国の実体経済に波及し、インフレが起きています。このインフレが家計へ与える影響がどれほどか、注視する必要があります。実際、2016年初時点で5%近くまで上昇していた実質可処分所得の伸びは、年末時点では既に0%まで下落しています。

 英国のインフレ率は上昇を続けており、足元では2.3%ですが、2017年中ごろまでには、3.5%程度まで上昇すると考えています。それにより、実質可処分所得が今後数カ月で更に下落し、結果として、家計支出や貯蓄率の低下が見込まれます。貯蓄率は従来から低下傾向で推移してきており、金融危機時に並ぶ低水準となっていることから、家計には消費を支えるだけの貯蓄の切り崩し余地がほとんど残っていません。そのため、2017年を通じて英国の消費は減速し、GDPも低下すると見ています。

 英国のEU離脱交渉は2017年5月に正式に開始される見込みです。EU側の対策本部を率いるミシェル・バルニエ首席交渉官は、この交渉を2018年10月頃までに完了させる必要があると述べています。交渉における議題としてまず挙げられるのは、未払いのEU予算分担金など、英国が支払うEU離脱コストに関する問題です。この問題は複雑であることから、その他の議題が先送りされる可能性があります。交渉全体をまとめる期限が切迫するという意味で英国とEU双方にとってリスクであるだけでなく、英国にとっては公平な結論および解決策を導き出せなくなるリスクがあります。

 迅速なEU離脱手続きを進めることに加え、今後の英国とEUの関係に関する幅広いフレームワークについても、合意が必要になると考えられます。例えば、通商に関しては、単なる貿易協定の締結に限らず、今後の両者間の通商関係全体のフレームワークをどう構築するかということも含まれるでしょう。そして、この新たな通商関係が合意に至るまでには、4~5年程度かかる可能性もあると考えます。新たな通商協定においては、現在のフルアクセス、フリーアクセス、つまり、EU域内での関税なしでの貿易やモノ・資本・サービス等の自由な移動が可能となっていた関係に比べ、何らかの制約が課せられる可能性があります。その場合、英国は、交渉の優先順位として、農業分野を諦め、医薬品や金融分野を優先させることも予想されます。このように、英国には産業別の交渉をしたいという意向もあるようですが、EUはそれに抵抗を示す模様です。また、こうした交渉がどのように進展するか、現時点では不透明な要素が多い状況です。

 もし、こうした幅広いフレームワークに関する交渉が合意に至らないうちに交渉期限を迎え、通商をはじめその他の関係に関する合意なしに英国がEUから離脱した場合は、「ハードブレグジット(強行離脱)」になると言えるでしょう。こうした結末は、英国、EUの両者にマイナスの結果をもたらすと考えられます。

 また、今後WTO(世界貿易機関)の規則に則った対応を取るならば、両者間の貿易には、より高い関税が課せられることになると思われます。そして、サービスを輸出することは、財の輸出よりも難しい問題をはらんでいると考えられます。この結果、安全保障やその他の重要な案件に対して、今後協調していかなければならない局面においても、英国とEUの両者間に悪影響を及ぼす可能性もあると考えられます。

キース・ウェイド  チーフ・エコノミスト兼ストラテジスト

 まず、英国市場が直面するリスクとしては、既に兆候がみられる国内景気の減速を背景に小型株市場への懸念が高まることが挙げられます。一方で、もし、英国のEU離脱交渉が難航し英ポンドが下落する場合、輸出企業にとっては支援材料となるでしょう。さらに大きな問題としては、政治的な混乱などにより英国や英ポンドに対する信任が失われるかどうかということが挙げられます。もし、英ポンドが継続的に下落することになると、賃金や物価の上昇圧力が高まり、中央銀行は政策金利の引き上げに追い込まれることになるでしょう。そうした状況は、英国の金融市場、特に債券市場にとって困難な状況をもたらすものと危惧されます。

 

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